裁量保釈の考慮要素
1 保釈の種類
保釈には、権利保釈(刑訴法89条)、裁量保釈(刑訴法90条)、義務的保釈(刑訴法91条)の3種類があり、このうち裁量保釈と呼ばれるものについてご説明します。
2 裁量保釈とは
裁量保釈とは、権利保釈の要件を満たさない場合であっても、裁判所の裁量によって保釈が許可されることをいいます。
刑事訴訟法第90条は「裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」と規定しています。
3 裁量保釈の考慮要素
上述の条文を踏まえた裁量保釈の考慮要素として主たるものは以下の5つです。
① 逃亡のおそれ
被告人が保釈したのちに逃亡するおそれある場合には、当然、裁量保釈は認められません。
被告人に逃亡のおそれがないと認められるような事情としては、たとえば、被告人には一緒に暮らしている家族がいること、被告人の仕事上の立場などが考えられます。
② 罪証を隠滅するおそれ
ここでいう罪証には、物証、書証、人証のあらゆる証拠が含まれています。
どのような証拠があり、実際に隠滅の可能性があるのかなどを検討する必要があります。
例えば、犯行の目撃者が知人であり、容易に接触して働きかけができるという場合には、罪証隠滅のおそれがあるとされやすいと考えられます。
罪証を隠滅するおそれは、証拠の取調べ状況にも応じて一刻と変化するものでもあるため、特に注意して検討する必要があります。
③ 健康上の不利益
被告人が病院へ通う必要がある、長期の身体拘束に耐えられないなど、健康上の不利益を主張することも検討されることがあるでしょう。
④ 経済上・社会生活上の不利益
身体拘束が続くと仕事を辞めざるを得ない状況になってしまうことや、会社の代表である場合には会社が破綻してしまうことなどが具体的な事情になるでしょう。
⑤ 防御の準備上の不利益
身体が拘束されていると弁護人との打ち合わせが十分に行えず防御上の不利益があるとの主張が検討されることもあるでしょう。